大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和43年(行ケ)4号 判決

当事者の表示 (別紙第一表)

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実《省略》

理由

一、昭和四三年一月一〇日訴外伸橋喜三郎同東谷敏雄及び同今西徳恵が原告等主張の大阪府条例制定請求のため同府知事からその証明書の交付を受け、自身で及び原告西岡恒也同宮内良祐同宮本和雄同山本美智子外五四、七五五名に委任して、選挙権ある住民の署名を得、関係各市区町村の選挙管理委員会に対し関係署名簿を提出し所要の証明を求め、そのうち原告等主張の本件署名を無効とせられたので、原告等はそれぞれその主張のとおり、異議の申立をして棄却せられ、更に被告に対し審査申立をしたところ、被告から、本件請求は法定の有効署名を得、昭和四三年五月二四日請求代表者から知事に対し請求があり、知事はこれを受理して同月三一日大阪府議会に付議し、ここに条例制定請求は成立したから、原告等申立の署名の効力は条例制定請求に異動を及ぼさず、本件審査請求は法律上意義を有しない、との理由で右審査請求を却下する旨の裁決を受け、同年六月九日その告知を労けたことは、その署名蒐集終了の日を除き、全部被告の認めるところである。

二、(署名の有効確認を求める請求について)、原告等は右の事実関係に基き、本件署名の有効確認を被告を相手方として求めるのであるが、本件署名を無効としたのは前記各市区町村選挙管理委員会であつて、被告の裁決には右有効無効の判断を示していないこと前記のとおりであるから、右有効確認を求めるためには各関係市区町村選挙管理委員会を相手方とすべきものであり、即ち右請求についての原告等の本訴は被告についての当事者適格を欠くものとして却下を免れず、原告等の右請求が、将来被告に対し本件署名の効力について判断を求めたときは、これを無効とされることが必至であるから、予め被告を相手方としてその有効確認を求める、というのであると解しても、それは訴につき即時確定の利益を欠くものとして、これまた却下を免れない。この点につき原告等は、右請求は本件裁決の取消を求める請求と表裏一体を成すといい、また、表現の補正に過ぎないというが、本件裁決が右署名の効力について判断を示していないこと前記のとおりであり、従て右裁決取消の裁判をすることは直に前記署名を有効とする裁判をしたことにはならないから、原告等の右主張は失当であり、当事者適格を欠く訴、即時確定の利益を欠く訴について本案の裁判をしないことは憲法第三二条に反するものではないから、この点に関する原告等の主張も失当である。

三、(裁決取消を求める請求について)本件大阪府条例制定請求が、決定数九七、九一一名を超える六八一、二八六名の署名が有効と確定して、受理せられ、昭和四三年五月三一日大阪府議会に付議せられたが、同年一〇月一三日同議会において否決せられたことは当事者間に争がなく、してみれば原告等請求にかかる本件裁決を取消しても、右条例の成否には何等の影響がないから、原告等のこの請求は訴の利益を欠くものというべく、これまた訴却下を免れない。原告等は、この請求につき実体の判断をしないことは住民としての基本的権利を侵害し憲法第一一条第一三条第一四条第一六条に反する旨主張するが、本件裁決が前記署名の効力についての判断を示さず従てこれを取消しても右署名の有効を判断したことにならないこと前記のとおりであるから失当であり、また憲法第三二条も利益を欠く訴について迄も本案の判断を示すことを命ずるものでないこと前説明のとおりであるから、この点の原告等の主張も失当である。

四、なお本件裁決当時法定数を超える署名が有効と確定し原告等請求にかかる条例案が大阪府議会に付議されていたことは当事者間に争がないから、本件裁決において原告主張の署名を有効と判断しても、これにより右付議(発案)に何等の影響がなく、従て右裁決が署名の効力につき判断を示す必要がないとしたのは正当である。もとより地方自治法第七四条の二の争訟が個々の署名の効力を確定するためのものであること原告等主張のとおりであるけれども、それは窮極的にはその署名を得て為された直接請求の成否に繋るものであるから、既にその請求が有効として受理せられ、その請求にかかる条例案が議会に付議された後の段階において、その無効とせられた本件点字による署名の効力の有無について行政庁の判断を求めるのは、直接請求を機会としたに止まり、これとは無関係に、点字による署名の効力について行政庁の判断を求めようとするに等しいのであり、また、有効署名の数が多ければ多いほどその請求にかかる条例案が議会において可決される可能性が多くなるということはいえようが、それは最早政治的な利益に属し、法律上の争訟の利益ということはできないから、行政庁がその判断をしなかつたからといつて、住民の基本的権利を害したものということはできないし、盲人につき個人として尊重せず差別をしたものということができず、請願権を侵害したものでもなく、その他右の説示に反する原告等の所論は、その独自の見解として、採用しない。

五、以上のとおりであるから、原告等の本件訴を却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。(石井末一 竹内貞次 畑郁夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例